2004_11_「後輩への深い同情」(日本新聞協会報)

日本新聞協会報 2004/11/2号 -磁気テープ-

 

「後輩への深い同情」    松尾文夫

 

 七十歳で出版した『銃を持つ民主主義-「アメリカという国」のなりたち-』(小学館刊)が第五十二回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞したおかげで、思いがけず本欄から声がかかった。たまたま九月後半のアメリカ取材旅行で「インターネット時代の特派員は大変だなあ」と現役諸君に深く同情して帰って来たので、報告する。

 きっかけは、ワシントンやニューヨークで、ワシ ントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙の早版カバーの仕事について「最近は電子版をネット上で見た東京のデスクから送稿を催促されることが多くなった」とのつぶやきを耳にしたことだった。

 

 一九六〇年代末と八〇年代前半の二度のワシントン特派員時代、ポスト早版からの「転電」は通信社特派員の命とばかりに取り組んだ仕事だった。雨の日も風の日も、午後十一時ごろ早版売りが立つ一四丁目とペンシルベニア大通りの角に行って、インクのにおいがまだ消えていないポスト紙を手にした緊張感はいまも手元に残る。ポスト記者のオリジナル記事から日本の読者への「ニュース」を見つけ、記事にする責任が百パーセント自分にまかされていたからである。

 ネット時代は、私にとっては、東京のデスクとのひそかな勝負の場でもあった「転

電」のイニシアチブを、特派員から奪おうとしているのだと考え込んでいると、取材相手の多くが、新聞記事よりも、日記型サイトに刻々 と寄稿するブロガーと呼ばれる情報提供者の影響を強く受けていることに気付いた。彼らは大統領選挙報道の影の主役ともいわれていた。

 メディアの大地殻変動の中で頑張る後輩たちに心から声援をおくる。

 

 

 日本新聞協会報2004.doc

 

© Fumio Matsuo 2012